年を取ると心配なことに「認知症」がある。だれしも認知症にはなりたくないと思うが、こればかりは、ならないという保証はない。では、認知症になってしまったら困ることは何か。その一つに、財産管理の問題がある。
老後、安心して暮らすために、長年コツコツお金を貯めてきた高齢夫婦のA男さんとB子さん。二人とも元気な時は、当然お金の管理は自分たちで行うのだが、年を取り、A男さんの認知症がだいぶ進んできた。そんなとき、A男さんは銀行口座のお金を、今まで通り、キャッシュカードを使ってATMで引き出すことができなくなるかもしれない。暗証番号忘れちゃったり、そもそも、足が衰えて銀行まで行けなくなったり。
そのときは、妻のB子さんが、代わりにATMで下ろせばいいではないか。確かにその手はある。でも、ATMには1度に引き出せる限度額がある。まとまったお金が必要な場合は、B子さんではなく、A男さん本人が、窓口で手続きしなくてはならない。定期預金の解約も同じく。代わりにB子さんが窓口に行っても「A男さんはどうしましたか?」と聞かれる。A男さんが認知症であることを告げると、銀行は即口座を凍結し、引き出しができないようにしてしまう。
辛抱して今までコツコツ貯めてきたお金が、いざというときに下ろせなくなる、ということが起きてしまうのだ。では、この凍結された口座のお金を再度使えるようするにはどうしたらいいのか? 銀行では「後見人をつけてください」と言われる。長年連れ添った妻であろうと、A男さん本人の判断力が衰えてしまうと、裁判所から後見人として選ばれない限り、財産管理の代わりを務めることはできないのだ。
このような状況に備える方法として、「家族信託」がある。将来の認知症などの判断力低下に備えて、自分の財産を、家族など「信頼できる人」に、早めに預ける(=信託する)仕組みだ。預けるのであって、あげる(贈与する)わけではない。こうしておくと、自分が認知症になっても、財産はすでに「信頼できる人」に預けて(信託して)いるので、「財産凍結」という事態を防ぐことができる。家族信託は、「本人」と、本人の財産を預かる「信頼できる人」との間で締結する契約。だから、本人が元気なうちにこの契約までしておかなければならない。そのため、家族信託の検討も、早めに行う必要がある。(山下)

