認知症に備える②

 認知症になった場合の財産管理の方法として、家族信託を紹介した。家族信託が役に立つケースとしては、金銭管理だけでなく、「実家の売却」の場面もある。

 例えば、高齢夫婦のうち夫が先立ち、妻が一人で実家に暮らしている場合。妻の認知症が進行し、自宅での生活が難しくなると、老人ホームなど施設に入所することがある。その際、実家は空き家になるので売却し、それで得たお金を、次の施設での生活に充てる、というプランを立てていたとする。

 ただ、その実家の売却時。実家の土地と建物の所有者である妻が、認知症によって判断能力が衰えていると、売買契約が有効に成立しない。つまり、せっかくいい買い主が現れても、家が売れないのだ。

 もし、将来実家を売って、施設に入所するという可能性がある場合は、早めに家族信託を利用しておくと有効だ。妻がまだ元気なうちに、例えば自分の子と、家族信託契約を交わしておく。実家を子に預ける(=信託する)ことによって、将来、自分が認知症になっても、実家の売却を、長男が代行し、そのお金を、次の自分の生活に使うことが可能となる。

 愛着のある自宅で、できる限り生活したいという希望はよく聞く。半面、ギリギリまで自宅で暮らした結果、施設に移る際は、すでに判断力が著しく低下し、実家の売却が困難になっていることも考えられる。仮にそうなったとしても、実家の売却をスムーズに進められるのが、家族信託である。

 家族信託は、「認知症に備える」ための選択肢の一つ。ただ、仕組みが少し難しく、実務的に使われ始めてまだ日が浅いため、専門家の中でも試行錯誤しながら取り組んでいるのが現状だ。もし関心のある方は、家族信託をよく理解している専門家に、早めに相談することをおすすめする。(山下)