「孫にも土地をあげることにしました」。遺言書を作成中の、高齢の女性から連絡があった。当初の打ち合わせでは、不動産はすべて地元にいる長男に継がせる予定だった。「孫」とは、東海地方にいる、亡くなった二男の娘。理由は、「熊本とのつながりを持ち続けてほしいから」という。
孫は、夏休みや冬休みといった長期休暇のたびに、熊本に一人で飛行機に乗ってやってきた。コロナ禍のころは、学校が休みの間、数カ月間ずっと、熊本の祖父母宅で生活したという。地域の公園で遊んだり、実家近くの土地に植わっている木の実を集めたり、また、地域のお祭りに参加し、住民らと一緒におにぎりを作るお手伝いをしたりして、近所の人たちからもよく可愛がってもらっているそうだ。「今年も帰ってくるのよ」と女性は目を輝かせる。
この思い出の土地の一部を、長男だけでなく、孫にもあげたいという。二男の急逝により、この孫にも相続権がある。ただ、土地といっても、山あいの地域。不動産の経済的価値だけで考えると、その土地はお世辞にも「もらってうれしい」土地とは言えない。今どき、どちらかといえば、「引き継ぎたくない」と言われてしまうような場所だ。
でも、孫にとっては、亡き実父のふるさと、自身のルーツの場所である。思い出もたくさんある。女性は孫を思い「私が亡くなった後も、いつでも熊本に来ていいんだよ」と涙ながらに話した。そのしるしとして、女性は孫に土地を託すことにした。女性の思いはきっと孫に届くだろう。土地とともに、女性の思いも、次代に引き継がれていく。(山下)

