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    ドンファン事件

     「紀州のドンファン」事件をめぐって、遺言書の有効性を争う民事裁判と、殺人などの罪に問われた元妻に対する刑事裁判の2つがこれまで続いていた。先日、刑事裁判の方の判決が出され、元妻は二審でも無罪となった。この結果、「紀州のドンファン」と呼ばれたNさんの遺産はどうなるのか、まとめてみた。

     報道によると、Nさんの家族は、元妻Sさんと、きょうだい。子どもはいなかった。つまり、Nさんの法定相続人は、元妻Sさんと、きょうだい。遺産は13億円とされている。

     ①Nさんの残した遺言書は「有効」
     Nさんは、「全財産を(和歌山県)田辺市に寄付する」という内容の、手書きの遺言書を残していた。この遺言書に対して、Nさんの兄らが「遺言書の署名は偽造」などと、遺言書の無効を主張して、裁判を起こしていたが、2025年、「遺言書は有効」との高裁の判断が出された。
     もし仮に遺言書が無効であれば、通常の相続となり、元妻Sさんときょうだいに遺産が引き継がれる。しかし、今回の結果は、遺言書は「有効」。Nさんの遺産13億円は、遺言書通り、すべて田辺市に寄付されることになる… ただ、これで話が終わらないのが、ドンファン事件。

     ②元妻Sさんは「無罪」
     一方、①の結論(遺言書は有効)をふまえた上で、次に、元妻Sさんが殺人罪で有罪になるか無罪になるか、どちらになるかで、遺産分けがどう変わるのかをみていこう。

     遺言書が有効の場合、元妻Sさんには「遺留分(いりゅうぶん)」という権利が、通常認められる。「遺留分」とは、遺言書の内容により、遺産をあまりもらえなかった(または全くもらえなかった)相続人が、遺産をたくさんもらった人に対して、ある一定の金額まで最低限請求することができる権利のこと。

     仮に、殺人罪が有罪になると、民法891条により、元妻Sさんは、Nさんの相続権を失い、「遺留分」も主張できなくなる。一方、殺人罪が無罪となれば、元妻Sさんは、Nさんの相続権が認められ、「遺留分」の権利を得る。この遺留分という権利を、元妻Sさんが行使することによって、①で田辺市に渡ったNさんの遺産13億円のうちの半分を、元妻Sさんは取り戻すことができる。

     結論は、元妻Sさんは「無罪」。今後、無罪判決が確定して、元妻Sさんが田辺市に対して、「遺留分」を請求すれば、Nさんの遺産13億円のうちの半分を得ることができる。

     ただ、この遺留分という権利を、使うか使わないかは、Sさんの自由。Sさんは、田辺市に遺留分を請求するだろうか? みなさんだったらどうしますか?(山下)