カテゴリー: 相続相談の現場から

  • あとを頼みます

    あとを頼みます

     「あとのこと、よろしく頼みます」。昨年末に他界されたTさんが、亡くなる2週間前に、私に電話をかけてきて、そう伝えた。さらに、「私はもう先が長くない。『私の相続はササッと終わらせなさい』と子どもたちに伝えてください」。電話口のはつらつとした声と、それとは相反するTさんの言葉に、私は混乱し、ただ黙って話を聞くしかなかった。

     以前、Tさんの遺言書作成にかかわった。財産分けについては、子どもたちの気持ちに配慮した内容を本文に織り込み、さらに、子どもたち一人ひとりに対する想いを、「付言事項」の部分で表現した。

     Tさんは、自身が亡くなったときの財産分けについて、遺言書で残すだけでなく、普段から、子どもたちに細かく話して聞かせていた。「そんな話をすると本当にそうなるから」と言って嫌がる子どももいたようだが、Tさんは自分の考えをしっかり伝えていた。

     ここまでしていれば、相続のときに、残された子どもたちが判断に迷うことはない。「親がそう言っていたから」。これが基準になる。これで全てが決まる。遺言書で文書として残すことはもちろん大事だが、話し言葉で伝えておくことも同じくらい大切だと感じた。(山下)

  • 金を売るか否か

    金を売るか否か

     最近、金の値上がりが話題になっている。先日の相談者は、金の塊を所有していて、このまま持っておいた方がいいのか、それとも、売却した方がいいのか、という点について悩んでいた。

     詳しく聞くと、その金は、数十年前に、1グラム数千円の時代に購入したそうだ。最近、1グラム3万円を超えた、なんていう報道もあったので、利益はかなり出ている。一方、もし売却したら、税金もだいぶかかりそうだ。相談者は、せっかくの資産を、家族のために有効に活かしたいと言っていた。

     詳しくは税理士さんの業務範囲になるが、一般的な話として、金を売却すると譲渡所得税がかかり、その売れたお金を家族に渡すと贈与税、亡くなられたときには相続税という、いろんな税金があることを説明した。

     相談者も、自身で税金のことを調べていて、売却するにしろ、金そのものを家族に引き継ぐにしろ、メリットやデメリットがあることを承知の様子。最後には「自分一人で考えるには限界がある。話を聞いてもらって、状況が整理できた」と喜んでいた。

     そして、財産の承継については、税金の観点だけでなく、家族が後々もめないように渡す「分配」の観点も忘れずに、と付け加えた。そのことにもとても共感してくれて、公証役場で遺言書を作ることをお勧めした。近々連絡すると言っていた。「自分自身がまだ気が付いていない課題に気が付くこと」。これが相談の目的だ。(山下)

  • 「1点もの」の時代

    「1点もの」の時代

     クラシックバイクの査定額が、700万円! 相談者の財産目録を見て驚いた。曰く「こだわりの『1点もの』の車やバイクは、世界中で高値で取引されている」という。

     私も仕事柄、亡くなった方の「遺品整理」の手伝いをすることがある。その時、故人が大切にしていた「お宝」の話がよく出てくる。絵画、掛け軸、陶磁器、家具、ブランド品、着物、家電などなど。「高価買取」のチラシも最近よく目にするし、家族からすると、「売却すれば、そこそこの値がつくのでは」と期待するが、大抵の場合、二束三文であることが多い。最悪「ゴミ扱い」されることもあり、「お宝」の処分の難しさを日々実感している。

     一転、クラシックバイクは、話が違うらしい。愛好者が集うイベントは、日本中あちこちで開催され、自慢のバイクを披露し合っているという。また、やむなくバイクを売る場合も、専門のオークションサイトがあって、世界中から買い手が集まるようだ。

     相談者のバイクも、アメリカからの輸入品。それに、自分好みのパーツをつけたり、チューニングをしたりして、こだわりの「1点もの」に仕上げる。ただ、そのバイクは日々乗り回すわけでなく、毎日車庫でエンジンをかけて、「音」と「ビジュアル」を楽しむとのこと。乗るのは、イベントの時だけ。しかも、会場まで車でバイクを運ぶそうだ。何となく気持ちは分かる。

     フェアレディZ、GT- Rなど、販売終了した日本の旧車も、いま世界中で人気があるそうだ。かつての大量生産の時代から、他にはない、替えが効かない、「1点もの」の時代が、確実にやって来ている。好きなもの(こと)をどれだけ尖らせられるか。人間の生き方にも通じる話だ。(山下)