カテゴリー: 相続相談の現場から

  • 最後の晩餐

    最後の晩餐

     「『最後の晩餐』は何がいいですか?」。講座の冒頭、こんな質問から始めることがある。参加者らは、いきなりの「縁起でもない」質問に戸惑っている。そして、私は一人一人に聞いて回る。

     「トロの握り!」。最後はぜいたくな食事をしたいという。別の人は「塩むすび」。昔母親が握ってくれた塩むすびの味が忘れられないそうだ。「最後は飯はいらん。焼酎を一杯」。大好きなお酒を飲んで締めくくりたい男性もいた。

     この質問の意図は、会場の緊張をほぐすこと、そして、もう一つ。この「最後の晩餐」の願いを、本当に実現しようと思ったら、だれかに伝えておかなければならない。そのことを知っておいてほしいということ。あくまで「最後の晩餐」は、自身の願い、希望の象徴。人生の晩年、自分のことが自分でできなくなったとき、何か叶えたい願いや希望があるならば、身近な人に話したり、紙に書いて残しておかないと、それは実現しない。最後の最後まで、他人任せではない、自分の人生を生ききるために。

     できれば、自分が重い病気にかかったとき、たとえば「延命治療をしてほしい、あるいは、しないでほしい」といった、命に関わる重大な決断についても、自分の意思として家族や周りの人に伝えておきたい。これを伝えておかないと、自身が意思表示できなくなったときに、家族を苦しめることになる。

     ちなみに、私の最後の晩餐は、「おもち」。毎年末にもちつきをして、正月にお雑煮やぜんざいにして食べるのが至高。「もちをのどに詰まらせて死ぬのが希望」というのは、半分冗談、半分本気。(山下)

  • 遺言書の価値

    遺言書の価値

     「遺言書の内容に、妹が反対しているんですが、どうしたらいいですか?」。先日、二人姉妹の姉が、相談にやって来た。

     亡くなった父が残した遺言書の内容に、妹が納得していないらしい。聞くと、不動産は姉、預貯金を姉妹で半分ずつ、となっていた。確かに、ここだけ見ると、妹からは不満が出てもおかしくないようにみえる。しかし、姉によると、父の生前、妹はかなりの金銭的支援を、父から受けていたと言う。

     「それでも、まだ言ってくるんです」。妹は性格が強く、要求をしてくるタイプのようだ。一方からの見方だけでは不十分であることは、私も重々承知しているが、姉の優しそうな話しぶりから想像するに、今回も、妹の言い分に、姉がだいぶ追い詰められている様子が見てとれた。「だから、お父様は遺言書を残したのだな」。私は姉妹の性格の違いを考えて行動したお父様のことを思った。

     「遺言書の内容を実現するのに、いちいち妹さんの了解はいりませんよ。妹さんに不満があろうとなかろうと、お姉様は粛々と手続きを進めることができます。そのための遺言書です」。私は答えた。

     「残された家族が遺産をめぐって話し合いをしなくていい。遺言書に書かれてある通りに財産分けを進められる」。遺言書の価値は、まさにこの点にあると私は考えている。普段はなんともない兄弟姉妹の関係だったとしても、いざ財産が絡む話になると、それぞれの考え方、今までは隠していた本音などが浮き彫りになり、思いがけず協議が難航することがある。

     亡くなった後、残された家族の負担を減らす。その意味でいくと、遺言書はどんな人も作ったほうがいい。財産があろうとなかろうと。家族の仲が良かろうと悪かろうと。自分の死後、家族が苦労している姿は見たくないではないか。

     「心が軽くなりました」。姉はそう言い残して席を立った。相談員として、これほどうれしい言葉はない。(山下)

  • 遺言書を作り直す

    遺言書を作り直す

     人の考えは変わるし、状況も変わる。だから、一度作った遺言書をまた作り直す必要が出てくる場合がある。

     この日の相談は、数年前に公正証書の遺言書を作ったが、その後、新しい家を建てたので、前回の遺言書では対応できない部分が出てきた。また作り直すべきかどうかという内容。

     結論から言うと、できれば作り直した方がいい。または、状況が変わった部分だけでも新たに遺言書を作るといい。ここでちょっと説明すると、死後、遺言書が2つ出て来た場合、作成の日付が新しい方が有効だと、聞いたことがあるかもしれない。これは正確には、2つある場合に、新しい方と前の方とで内容が「矛盾している部分」は、新しい方が有効という意味になる。

     例えば、前の遺言で、「父の預金は、兄弟2人で、兄3分の2、弟3分の1の割合で分ける。家は兄が継ぐ」となっていて、新しい遺言では「家は弟が継ぐ」とだけ書いてあった場合。「家をだれが継ぐか」の部分は後の遺言、つまり「弟が継ぐ」が有効で、預金については、前の遺言通り「兄弟で3分の2、3分の1の割合で分ける」が有効となる。新しい遺言がある場合に、前の遺言書が全部無効になるわけではない。

     今回の相談でも、その相談者の方は「新しく建てた家をだれにやるか、書いておくとよかっでしょ」と言われた。全くその通り。だけど、、、 できればその追加(変更)の部分も公正証書で作りませんか? お金かかるけど。その方は、自分で手書きしておくようなことを言われていたが、個人的にはあまりお勧めしない。

     遺言書は、一般の方がなかなか知らないような、法律的な言い回し(表現)をしないと、実際の手続きに使えないことがある。遺言書は残っていたのに、手続きに使えなかった経験を私自身何度かしているので、多少お金はかかるかもしれないが、専門家にチェックしてもらうか、または、公証役場で作るかのどちらかを選んでほしい。せっかく作った遺言書が、後で使えないのは、もったいないから。(山下)