家族の物語

 私には兄がいる。でも、会ったことはない。私が生まれる前に亡くなったから。7歳だった。彼が亡くなった後に、私が生まれた。だから、私は戸籍上「二男」である。

 歳を取って時々思うのは、兄が亡くなっていなければ、私はきっと生まれていなかっただろうな、ということ。なぜそんなことを考えるのか、特別理由はないけれど、なんとなくそんな気がする。だからといって、兄の分も精一杯生きよう、なんて気負いは全くない。でも、運命としてそれを受け入れ、自分の生を、全うしよう。それだけだ。ただ、私がここに生きていることは、けっこう奇跡的なことかもしれないと思ったりする。

 兄が亡くなって、両親も相当きつかったと思うが、兄の話題が、日常生活の中で出てくることはなかったように記憶している。両親は、私の前では、兄の死を引きずるでもなく、兄を美化するでもなく、ただ、生まれてきた私と弟に、愛情を注いでくれた。両親には感謝しかない。

 相続の相談を受けていると、いろいろな家族に出会う。家族の物語は、その家族にしか分からないことがやはりある。私もそれを一生懸命理解しようとするが、力不足で、相談者を失望させることだってある。だけど、努めて分かろうとする。その気持ちだけは忘れないようにしたい。(山下)