私の母は86歳。大分県在住。自分では「まだまだ元気」と言っているが、一昨年の冬に、庭先でつまずき、膝のお皿の骨にヒビが入って、一カ月入院した。何より耳が遠い。会話の際は、こちらが大声を張り上げないといけない。そのくせ話好きで、やたらと話しかけてくる。大層疲れる。だから「集音器つけて」と頼む。補聴器はなぜか作ろうとしない。年相応に物忘れもある。
父が8年前に亡くなってから母は一人で生活している。だから、近くにいる母のきょうだいが心配して、「そろそろ施設に入ることも考えたら?」と言うと、「私は認知症ではない。施設に頼らなくても大丈夫だ」と怒る。認知症のワードに敏感。プライド高め。かと思えば、「将来は施設に入れてくれ」とも。言うことが揺れ動く。
私も熊本にいて、ひと月かふた月に1回くらいしか、会いに行けない。だから、母の介護準備が、思いはあるものの、今までなかなか進まなかった。介護準備というのは、母が介護が必要な状態にならないように、予防していくこと。具体的には、一日中家に閉じこもっている母に、地域のサロンやデイサービスを利用して、家の外に出て、人と交流してもらったり、弱ってきた足腰を鍛える筋力トレーニングを行ってもらったりすることをイメージしていた。
ただ、母の自尊心を傷つけないように、そして、できれば「気持ちよく」、どうやったら、そういった介護予防のサービスなどを利用してもらえるか。この難題を、私なりに一生懸命考え続けた。「作戦」を練りに練って、いつか来る「決行」の日に備えていた。
昨秋、母と墓参りに行った。そのとき、山中にあるお墓の入り口で、母が転倒した。この場所で母が転ぶのは、幼い頃から何度も一緒に来ているが、初めてだった。「よし、今だ」。「作戦決行」の日を、その日と決めた。墓参の後、私は実家に帰り着いてから、いよいよ母に「作戦」の内容を話し始めた。(つづく)(山下)

