遺言書の価値

 「遺言書の内容に、妹が反対しているんですが、どうしたらいいですか?」。先日、二人姉妹の姉が、相談にやって来た。

 亡くなった父が残した遺言書の内容に、妹が納得していないらしい。聞くと、不動産は姉、預貯金を姉妹で半分ずつ、となっていた。確かに、ここだけ見ると、妹からは不満が出てもおかしくないようにみえる。しかし、姉によると、父の生前、妹はかなりの金銭的支援を、父から受けていたと言う。

 「それでも、まだ言ってくるんです」。妹は性格が強く、要求をしてくるタイプのようだ。一方からの見方だけでは不十分であることは、私も重々承知しているが、姉の優しそうな話しぶりから想像するに、今回も、妹の言い分に、姉がだいぶ追い詰められている様子が見てとれた。「だから、お父様は遺言書を残したのだな」。私は姉妹の性格の違いを考えて行動したお父様のことを思った。

 「遺言書の内容を実現するのに、いちいち妹さんの了解はいりませんよ。妹さんに不満があろうとなかろうと、お姉様は粛々と手続きを進めることができます。そのための遺言書です」。私は答えた。

 「残された家族が遺産をめぐって話し合いをしなくていい。遺言書に書かれてある通りに財産分けを進められる」。遺言書の価値は、まさにこの点にあると私は考えている。普段はなんともない兄弟姉妹の関係だったとしても、いざ財産が絡む話になると、それぞれの考え方、今までは隠していた本音などが浮き彫りになり、思いがけず協議が難航することがある。

 亡くなった後、残された家族の負担を減らす。その意味でいくと、遺言書はどんな人も作ったほうがいい。財産があろうとなかろうと。家族の仲が良かろうと悪かろうと。自分の死後、家族が苦労している姿は見たくないではないか。

 「心が軽くなりました」。姉はそう言い残して席を立った。相談員として、これほどうれしい言葉はない。(山下)