カテゴリー: 相続相談の現場から

  • 生前の「遺産分け」?

    生前の「遺産分け」?

     父がまだ元気(母はすでに死亡)なのに、2人兄弟の弟の元に、兄から「父の遺産分割協議書」なるものが届いた。それも近日中に「印鑑を押して返事せよ」とのこと。弟は「返さないといけないのか」と困惑し、相談に来られた。

     もし、弟が署名・押印して、返信したとしても、この書面自体に法的な効力はない。理由は、まだ父が亡くなっていないから。「遺産」分割というくらいだから、亡くなった時点で残っていた財産=遺産が、協議の対象であり、まだ元気な父がこの先亡くなるまでの間に、自分の財産をどんどん消費したり、処分したりする可能性はいくらでもある。父がまだ元気なうちは、「遺産」が確定できない。なのに、それをどう分けるかの話し合いは、ナンセンスということだ。

     しかも、遺産分割協議は、「相続人」が全員で行わなければならない。その相続人も、父が亡くなった時点が基準で、だれが相続人であるかが決まる。今後、父より先に子どもが亡くなることもあり得るし、そうなったときは、相続人のメンバー構成が大きく変わる可能性がある。

     今回のケース、兄はどんな考えで、弟にこのような書面を送りつけてきたのか不明だ。弟曰く「私が父のそばで面倒を見ているからちゃんと財産が残されるのか心配になったのでは」。一方、すでに父は遺言書を作成しているとのこと。ただ、それは、手書きの遺言書ということだったので、できれば今からでも公正証書で作成するよう勧めた。兄の今回の行動は、将来の相続争いの予兆とも取れる。それだけに、慎重に、確実に準備しておくことが肝要である。(山下)

  • 遺言書が必要な人は?(その①)

    遺言書が必要な人は?(その①)

     「遺言書が必要な人は?」と聞かれたら、私はこう答える。「すべての人です」。

     「遺言書を作っておいた方がいい人」の、一般的なイメージは、例えば「財産をたくさん持っている人」とか、「家族仲が良くない人」とか、を思い浮かべるだろう。もちろん、そういった人たちも作っておくべきだ。だが、私は、あえて「すべての人」が遺言書を作るべきだと考えている。財産が多かろうが少なかろうが、家族仲が良かろうが悪かろうが、である。

     なぜか。その理由は、「残された家族の負担を大きく軽減できるから」である。人はいつか必ず亡くなる。その時、財産が多かろうが少なかろうが、「相続」は必ず起こる。当然、残された家族が、相続の手続きをしなければならない。

     この手続きを進める上で大きなハードルとなるのが、「遺産分けの話し合い」である。遺言書がない場合は、亡くなった人が最後に残した財産(遺産)を、家族のうち、「だれが、どのくらい」引き継ぐのかについて、家族同士で話し合いをしなければならない。この「話し合い」自体が、家族にとって負担になることが多い。だって、「自分はどのくらい欲しい」みたいな主張って、いくら家族とはいえ、言いづらくないだろうか? さらに、互いの意見が食い違えば、最悪紛争に発展してしまう。

     その点、遺言書があれば、遺言書に書いてある通り、財産が引き継がれる。遺言書を作る人が、しっかり家族のことを考えて、「こんな風に分けなさい」と、自身の考えを書面で残していれば、家族はそれに従わざるを得ない。なぜなら、遺産は、その人がこれまで自分自身で築いてきた財産なのだから。その遺産を、だれに引き継いで欲しいかが、ちゃんと遺言書で示されていれば、家族だって納得せざるを得ないだろう。

     今の時代、亡くなった人の遺産は、それを相続できる人とその割合が法定されていて、それに該当する人は、相続できてしまうことが「常識」となっている。そうではなくて、財産は「必ず遺言書を作って残す」ことが「常識」となり、遺言書を作った人の希望通りに財産を承継できることが当たり前の世の中になればいいなと思う。(山下)

     

  • 家族の物語

    家族の物語

     私には兄がいる。でも、会ったことはない。私が生まれる前に亡くなったから。7歳だった。彼が亡くなった後に、私が生まれた。だから、私は戸籍上「二男」である。

     歳を取って時々思うのは、兄が亡くなっていなければ、私はきっと生まれていなかっただろうな、ということ。なぜそんなことを考えるのか、特別理由はないけれど、なんとなくそんな気がする。だからといって、兄の分も精一杯生きよう、なんて気負いは全くない。でも、運命としてそれを受け入れ、自分の生を、全うしよう。それだけだ。ただ、私がここに生きていることは、けっこう奇跡的なことかもしれないと思ったりする。

     兄が亡くなって、両親も相当きつかったと思うが、兄の話題が、日常生活の中で出てくることはなかったように記憶している。両親は、私の前では、兄の死を引きずるでもなく、兄を美化するでもなく、ただ、生まれてきた私と弟に、愛情を注いでくれた。両親には感謝しかない。

     相続の相談を受けていると、いろいろな家族に出会う。家族の物語は、その家族にしか分からないことがやはりある。私もそれを一生懸命理解しようとするが、力不足で、相談者を失望させることだってある。だけど、努めて分かろうとする。その気持ちだけは忘れないようにしたい。(山下)